歯の白さは何で決まる?エナメル質・象牙質・光の散乱から考える「歯の色」の科学

「歯が白い」「歯が黄色い」と私たちは簡単に表現しますが、そもそも歯の色はどこに存在しているのでしょうか。

実は、歯の表面に「白」という色が塗られているわけではありません。

天然歯の色は、歯に入った光が反射・散乱・吸収・透過を繰り返し、最終的に歯から戻ってきた光を私たちの目が認識することで生まれます。

そのため、歯の白さを理解するには「色素」だけではなく、エナメル質、象牙質、水分、歯の厚み、光の散乱まで考える必要があります。

歯の色は、実は非常に複雑な「光学現象」なのです。歯の色に関する代表的レビューでも、天然歯の内因性色はエナメル質と象牙質における光の散乱・吸収特性によって決まると整理されています。(PubMed)

歯は「真っ白な物体」ではない

天然歯をよく観察すると、コピー用紙のような均一な白ではありません。

切端はやや透明感があり、歯頸部では黄色味が強く見え、中央部分には独特の明るさがあります。同じ1本の歯の中でも色が違います。

これは歯が単一の物質ではなく、大きく

エナメル質

象牙質

という光学特性の異なる組織から構成されているためです。

外側のエナメル質は高度に石灰化した組織ですが、完全に不透明ではありません。ある程度の光を内部へ透過させます。

一方、その内側にある象牙質はエナメル質より黄色味が強く、不透明性も高い組織です。

したがって、私たちが見ている「歯の色」はエナメル質だけの色ではありません。

エナメル質を通して見えている象牙質の色と、エナメル質内部で起こる光の散乱が重なった結果なのです。(PubMed)

光が歯に当たると何が起こるのか

歯に光が当たると、すべての光が表面で反射するわけではありません。

一部は表面で反射しますが、一部はエナメル質内部へ入ります。

そこで、

入射光

表面反射

エナメル質内部へ透過

散乱

象牙質へ到達

吸収・散乱

再びエナメル質を通過

目へ戻る

という非常に複雑な現象が起こります。

このとき重要なのが**散乱(scattering)**です。

歯はガラスのような均一な透明体ではありません。エナメル小柱、結晶構造、象牙細管などの微細構造を持っているため、内部へ入った光はさまざまな方向へ散乱します。

この散乱によって歯特有の「明るさ」「透明感」「奥行き」が生まれます。

したがって天然歯の色を単純な「白色」として再現することが難しいのは、このためでもあります。

象牙質が歯の「基本色」に大きく関係する

歯の色を考えるうえで特に重要なのが**象牙質(dentin)**です。

象牙質には黄色~黄褐色系の色調があり、天然歯の基本的な色調に大きく関与します。

一方、エナメル質は象牙質より半透明性が高いため、その下にある象牙質の色を完全には隠しません。

そのため、天然歯では、

象牙質=歯の基本的な色調に大きく関与
エナメル質=透明感・明るさ・光の散乱を調節

と考えると理解しやすくなります。

もちろん実際の歯の光学現象はこれほど単純に二分できません。しかし臨床的に「なぜ歯が黄色く見えるのか」を理解するには重要な考え方です。天然歯の色がエナメル質と象牙質双方の光学特性から形成されることは、歯の色に関する研究で一貫して指摘されています。(PubMed)

なぜ歯の先端は透明に見えるのか

前歯を見ると、切端付近だけ少し青みや透明感を感じることがあります。

これは切端部では象牙質の影響が相対的に少なくなり、エナメル質の光学特性が強く現れるためです。

逆に歯頸部ではエナメル質が薄く、象牙質の色の影響を受けやすいため、黄色味が強く見える傾向があります。

つまり同じ歯でも、

切端 → 透明感が強い
中央 → 明度が比較的高い
歯頸部 → 象牙質の色を反映しやすい

というグラデーションが存在します。

天然歯が「単色ではない」ということは、ホワイトニング後の色評価やセラミック修復の色合わせでも非常に重要です。

「白さ」は色だけでなく明るさにも左右される

歯科では歯の色を客観的に表現するため、CIELAB色空間が広く用いられています。

代表的な3つの指標は、

L*:明度。大きいほど明るい
a*:赤-緑方向
b*:黄-青方向

です。

ホワイトニングを研究するとき、「白くなった」という主観だけでは科学的な比較ができません。

そこでL*、a*、b*を測定し、処置前後の色差を評価します。歯科の色調研究ではCIELABが非常に広く用いられています。(ScienceDirect)

しかし、人間が感じる「白さ」はL*だけでは決まりません。

明るくなったか、黄色味が減ったか、赤味がどう変化したかなどが組み合わさって白さとして知覚されます。

歯科には「白さ」を測る指標まである

そこで歯科用に開発されたのが、

Whiteness Index for Dentistry(WI_D)

です。

Pérezらは2016年、天然歯に対する人間の「白い」という視覚的評価との対応を考慮して、CIELABを基礎とする歯科用白色度指数を開発しました。

その式は、

WI_D = 0.511L* − 2.324a* − 1.100b*

です。(ScienceDirect)

この式を見ると非常に興味深いことが分かります。

単にL*を上げれば白く見えるわけではなく、特に黄色方向を表すb*の変化も白さの知覚に関係します。

つまり「歯を白くする」という現象は、単純な明度上昇だけでは説明できません。

ホワイトニングは何を変えているのか

ホワイトニングでは主に過酸化水素、または過酸化水素を放出する過酸化尿素が使用されます。

これらの作用によって歯内部に存在する着色に関係する有機分子の構造が変化すると、可視光に対する吸収特性も変わります。

その結果、歯から目へ戻ってくる光のスペクトルが変化し、私たちは「歯が白くなった」と認識します。

つまりホワイトニングは、

白い塗料を歯の表面に付ける治療ではありません。

また、単に表面の汚れを削り取っているわけでもありません。

歯の内部における光の吸収・散乱の状態を変化させ、結果として見える色を変えていると考えると理解しやすくなります。

この点が、クリーニングによるステイン除去とホワイトニングの大きな違いです。

歯が乾くだけでも白く見える

ここで非常に面白い現象があります。

歯は乾燥するだけでも白っぽく見えます。

ラバーダムなどによって歯面を長時間乾燥させると、歯の明度が上昇し、肉眼でも色の変化を認識できることがあります。

臨床研究でも、20人の上顎中切歯を30分間脱水させると色調が有意に変化し、観察者は脱水した歯を有意に明るいと判断しました。(ScienceDirect)

2023年の25人を対象とした前向き研究でも、脱水時間の経過とともにL*が変化し、歯がより明るく見えることが確認されています。(PubMed Central (PMC))

これは歯から水分が減ることでエナメル質の屈折・散乱条件が変化し、透明性が低下して象牙質の色が見えにくくなることなどが関係すると考えられています。(PubMed Central (PMC))

ホワイトニング直後の「白さ」はすべて漂白効果なのか

ここは臨床上とても重要です。

ホワイトニング直後に鏡を見ると、

「すごく白くなった」

と感じることがあります。

もちろん漂白作用による色調変化はありますが、処置中に歯が乾燥していれば、脱水による一時的な明度上昇が重なっている可能性があります。

したがってホワイトニング直後の色を、そのまま最終的な歯の色と考えるのは慎重であるべきです。

脱水後の歯色が再水和によって変化することは複数の臨床研究で確認されており、研究によって回復時間には違いがあります。30分で完全に戻るとは限らず、24時間後の評価まで行った研究もあります。(PubMed)

このため、セラミックやコンポジットレジンなど精密な色合わせを行う場合にも、歯の水分状態を一定にして評価することが重要になります。

加齢すると歯が黄色く見えやすくなるのはなぜ?

年齢とともに「昔より歯が黄色くなった」と感じる方は少なくありません。

これも表面の着色だけでは説明できません。

歯は長期間にわたり口腔内で機能し続けます。その間に象牙質の変化、二次象牙質形成、エナメル質の摩耗、内部への着色物質の蓄積など、複数の変化が起こります。

その結果、象牙質の色の影響が相対的に強くなり、若い歯とは異なる光学特性を示すようになります。

つまり加齢による歯の黄ばみは、

「コーヒーを飲んだから黄色くなった」

という外因性着色だけではなく、歯そのものの構造と光学特性の変化も関係する現象です。

「歯の白さ」は一つの数字では表せない

歯の色を科学的に考えると、「何段階白くなりました」という説明だけでは、本来の変化を完全には表現できません。

歯の見え方には、

エナメル質の透明性
象牙質の色
歯質の厚み
光の散乱
光の吸収
表面反射
水分量
観察する光源

など多くの要素が関係します。

さらに実際の臨床では、唇や歯肉の色、隣接歯とのコントラストなどによっても「白さ」の印象は変わります。

だからこそ歯科では、シェードガイドによる視覚評価だけでなく、必要に応じて分光測色計などを用いた客観的な色評価が研究・臨床で行われています。

歯の白さとは「光と歯の相互作用」である

歯の白さは、単に「歯に白い色素が多いか少ないか」で決まっているわけではありません。

歯に入った光が、

エナメル質を通過し、
内部で散乱し、
象牙質で吸収・散乱され、
再び歯の外へ戻ってくる。

その結果を私たちの目と脳が「歯の色」として認識しています。天然歯の内因性色がエナメル質と象牙質の光学的特性に由来するという考え方は、歯科色彩学の基本です。(PubMed)

だからこそ、同じ人の歯でも切端と歯頸部では色が違い、乾燥しただけでも白く見え、加齢によっても色調が変化します。

そしてホワイトニングとは、単純に「歯の表面を白くする治療」ではありません。

歯内部の着色に関係する分子を変化させ、その結果として歯内部で起こる光の吸収・散乱特性を変え、人間が知覚する色を明るく・白く見える方向へ変化させる治療と捉えることができます。

「歯の白さ」を科学的に理解すると、ホワイトニングは単なる美容処置ではなく、歯科材料学、色彩学、光学、歯の組織学が交わる非常に興味深い分野であることが分かります。

参考文献

  1. Joiner A. Tooth colour: a review of the literature. J Dent. 2004;32 Suppl 1:3-12. doi:10.1016/j.jdent.2003.10.013. (PubMed)
  2. Pérez MM, Ghinea R, Rivas MJ, et al. Development of a customized whiteness index for dentistry based on CIELAB color space. Dent Mater. 2016;32(3):461-467. doi:10.1016/j.dental.2015.12.008. (PubMed)
  3. Russell MD, Gulfraz M, Moss BW. In vivo measurement of colour changes in natural teeth. J Oral Rehabil. 2000;27:786-792.
  4. Burki Z, Watkins S, Wilson R, Fenlon M. A randomised controlled trial to investigate the effects of dehydration on tooth colour. J Dent. 2013;41(3):250-257. doi:10.1016/j.jdent.2012.11.009. (ScienceDirect)
  5. Hatırlı H, Kılıç E. Clinical effects of dehydration on tooth color: How much and how long? J Esthet Restor Dent. 2021;33. doi:10.1111/jerd.12612. (PubMed)
  6. Alamé A, et al. The Effect of Dehydration on Tooth Color: A Prospective In Vivo Study. Cureus. 2023;15:e48140. doi:10.7759/cureus.48140. (PubMed Central (PMC))

執筆・監修歯科医 ありが歯科院長 有賀智哉

日本人歯科医師として、ホーチミン旧1区にて日本品質の歯科治療を提供。
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